2011年後期　第7回生物学セミナー

日時：12月13日　16：00～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Identification of the endodermal vacuole as the iron

storage compartment in the arabidopsis embryo

Roschzttardtz, H., Cone´je´ro, G., Curie, C., Mari, S.

Plant Physiology, 151. 1329–1338

シロイヌナズナの胚における、鉄貯蔵領域としての内皮の液胞の同定

鉄は電子伝達過程の中心的な機能を担うため、全ての生命体にとって必要不可欠な金属イオンである。植物においてはクロロフィルや光合成の電子伝達系にも必要なため、特に重要である。今までの研究により、シロイヌナズナの根における鉄との高親和性の獲得は、AtFRO2にコードされた三価鉄還元酵素とAtIRT1にコードされたFe2＋輸送体によってコントロールされることが明らかになった(Eide et al., 1996; Robinson et al., 1999; Vert et al., 2002)。根の細胞では、中心柱に向かって輸送された鉄は、最終的に多剤排出ポンプファミリーに所属するFRD3によって木部に流入する(Green and Rogers, 2004; Durrett et al., 2007)。そして、流入した鉄の分配は、ニコチアナミン‐金属トランスポーターによって制御されていることが明らかとなった(Curie et al., 2009)。しかし、輸送された鉄の細胞内と組織間での分布は、今まで十分な実証が得られていない。そこで本研究では、細胞内での鉄の蓄積がどのようにされるかを解読することで、鉄の局在化・恒常性についてのさらなる検証を行うことを目的とした。

　以前のEDXを用いた研究によると、シロイヌナズナの種子では、胚軸－幼根軸と子葉の両方の前形成層領域で、最も高い鉄の蓄積が見られている。今回、胚の鉄貯蔵を含む細胞を同定するため、wild-type、液胞型鉄輸送体ノックアウト変異体vit1-1、金属輸送体欠失のnramp3およびnramp4の胚を観察した。野生型の胚では、胚軸と子葉の前形成層を囲む細胞層での蓄積が見られたが、前形成層と一致はしなかった。実際に前形成層のマーカーであるAtHB8プロモーターの活性は、鉄の染色で囲まれた領域とは異なった位置にあった。また、内皮と皮層に属する2つの娘細胞を作る初期の内皮細胞の周縁分裂では、鉄の蓄積が皮層の娘細胞で失われ、分化した内皮細胞でのみ観察された。しかしvit1-1では、子葉と胚軸の表皮下の細胞で蓄積が見られ、この異常な局在化は、vit1-1胚での異常発生した内皮とは関係なかった。nramp3・nramp4の胚では、鉄の分布は野生型と同じだった。内皮の形成が見られない変異体のshort root (shr)における鉄の分布を調べたところ、shr変異体の内皮が存在しない条件下では、鉄の蓄積が胚軸の中心柱に見られ、極性に沿って分布していた。これらのことから、胚における正常な鉄の分布に必要なものは皮層ではなく内皮の層であり、鉄が中心柱へと移動するのをコントロールする障壁を、すでに初期段階で内皮が形成していると考えられる。

　最新のPerls/DBA法による鉄のin situ染色を用いることで、鉄輸送体ノックアウト変異体vit1-1においては、鉄は液胞に蓄積されていることは確認されたが、内皮細胞から離れた位置であった。この知見は、鉄の蓄積に対処するために、これらの特別な細胞では、他の液胞の鉄輸送システムが活性化している事を示す。今まで実証されてないが、内皮細胞の液胞によりVIT1は内皮細胞の液胞の鉄輸送と関係がある可能性がある。VIT1が媒介する内皮の液胞への鉄の流入が、内皮細胞への鉄のシンプラスト流入を起こすというモデルを我々は提唱する

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください

荒内　亮輔